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2005年03月21日

★応募作品の概要(アイデアレベル)

輝明(33)は全国に拠点のある情報処理サービス企業の主任。3年前から大手工作機械メーカーの基幹システムリプレース作業のプロジェクトマネージャーとして日夜骨身を削っている。(ユーザサイドの極めて理不尽な対応に困憊し、過労で幾度か倒れることも) その夜も、お客の情報システム部部長から常識を逸した要望があり、社内に稟議を通すために夜中まで書類を書いているところだった。

しかしながら輝明はわかっていた。
ここ数ヶ月間費やしたシステム構築が未回収に終わるかもしれないという稟議書が社内を通るわけがなく、書類を作成しながらも絶望感に打ちひしがれている。
胃の辺りを手で押さえ、偏頭痛で揺れる後頭部をもう一方の手で鷲掴みする。カレンダーを見る。壁時計で時刻を確認する。すでに誰もいなくなったオフィス。そのオフィスで輝明はふと現在の置かれた自分の立場を振り返る。
過労のため入退院を繰り返し、そのために痩せ細った体。7年連れ添ったにもかかわらず現在は絶縁状態の妻。そして何より、国際ボランティアとしてドミニカ共和国で2年間活動し知り合った仲間たちの顔、美しく生命の芳香がみなぎるカリブの海……。それらのキーワードが醸し出すイメージが頭の中で錯綜すると、輝明はたまらない気持ちになる。
輝明は三重の伊勢出身。父親が幼少のころ他界したため、また、祖父も随分と昔に死んでいたために、海女であった祖母に育てられた。そのため海に馳せる思いは人一倍強い。ドミニカにいるころは、仕事の合間を縫ってよく海を潜った。
運動神経はそれほどよくはなかったが、潜水にかけては自信があった。カリブの海の色を思い出し、素潜りしていた時のイメージを頭の中に描いていると、いつの間にか涙が浮かんでくる。日本に帰ってきてちょうど3年。この3年間、自分は果たして何をしてきたのだろうか……。


朝の2時を過ぎたころ、部下の青田がオフィスに戻ってくる。青田はまだ20代だがインフラ構築のスペシャリスト。別ユーザのネットワーク環境に不具合が生じ、呼び出しを食らっていた。オフィスに戻り、上長に報告するためのメールを書きにきたのだと言う。ポイント稼ぎのためだ。青田は毎夜毎夜休まず仕事を続ける輝明に呆れ、いい加減、お客の言いなりにならないでくださいよと進言。
担当しているお客の常識外れな要求をよく理解している青田は、輝明より5歳以上年下だがお構いなし。輝明が倒れ、長期入院ともなると代役は自分にまわってくる、あのプロジェクトを任されるくらいなら仕事は辞めますと豪語する。禁煙のオフィスだが、夜中ということもあり青田は平気でタバコを吸い、自分の掌で吸殻を受け止める。
つまらない仕事は中断して、ドミニカの思い出話でもしてください。女とのロマンスだとか。いろいろあるでしょう。気分転換にお願いしますよ。

輝明は青田に言いくるめられ、仕方なく、ドミニカにいた頃のロマンスの話をはじめる。


ボランティアの活動をはじめて一年がたったころ、仕事の合間を縫って海を潜っていた輝明は、ある沖合いの岩礁に美しいスポットがあることを発見。カラフルなソフトコーラルや珊瑚が密集し、見たこともない魚や貝も多数発見できた。

祖母が真珠貝を採取する海女だったため、輝明も貝には詳しい。何度もそのスポットへ行っては珊瑚や貝を鑑賞した。そんなある日、輝明が潜っている最中、同じようにそのスポットを素潜りする現地の少女と知り合う。名前はファビオラ。
18歳。
はじめの数回は、彼女が警戒していたため言葉を交わすことはなかったが、幾度となく顔を合わせるたびに話をし、そして干潮のときにだけ海上に姿を現す岩礁に腰を据えて話をする仲に。ファビオラは岸からわずかに見える島の出身で、お互いがお互いの土地へ足を踏み入れることなく、ただそのスポットでのみ会っていた。

そして二人は恋に落ちていく。

しかし輝明には日本に残した妻がいた。任期終了が近づくにつれ苦悩するものの、結局はファビオラには何も告げずに帰国、今に至っていると輝明は言う。青田は思いもかけないロマンスを聞いて興味津々。それから一度も連絡をとっていないかと聞くが輝明はしていないと言う。ただ輝明にも未練があった。ドミニカへ赴任する前から妻との仲は険悪であったからだ。

そこで輝明は子供じみた賭けをした。帰国間際、ファビオラとの思い出のスポットに行った輝明は、ある場所に防水カプセルで保護した携帯電話を隠しおいた。輝明とファビオラは常にそのスポットで逢引していたが、電話等の連絡手段がない。(ファビオラの島に電話が引かれていないため)そこで二人は岩礁のある場所に手紙やちょっとしたプレゼント(といっても貝殻や誕生カードなど質素なもの)を置いてコミュニケーションをとっていた。輝明が携帯電話を置いたのはその場所である。

輝明は携帯電話をファビオラに持たせ、日本に帰国してもし心変わりしたらそこへ電話してみようとしたのだ。しかし輝明がファビオラに渡した携帯電話に電話が通じるためには、3つの条件が揃ってなければならない。

それは、ファビオラが携帯電話自体を拾い上げて保有していること。そして電話自体に電源が入っていること。そして電波が通じる場所にファビオラが移動していること……この3つだ。

固定電話さえないファビオラの島に携帯電話が利用できるはずがない。ファビオラがその携帯電話を拾い上げ、さらには電源を入れた状態で、島を離れ、ドミニカ本土の、中流の町に移動していなければ使うことなどできない。それらの偶然が重なりあってはじめてこのロマンスは成就するのだが、そんなことははじめからあり得ないことだった。
わかり切ってはいたが、万に一つの可能性でも残しておきたいと思い、今もなおドミニカで加入したその携帯電話は解約していないと輝明は言う。

青田は絶句していて何も言えないが、さらに輝明は「しかしまだ話の続きはある」と言った。
実はファビオラが携帯電話の電源を入れず、ただ保有しているだけの状態にする可能性も高いと思い、スポットに携帯を沈める直前に、ウェイクアップ機能を設定した。輝明は設定した日時がやってくると自動的に電話端末に電源が入り、アラームを鳴らすという設定をしていたのだった。

その日時はいつだ、と青田はせっつくように聞く。設定した日時は、帰国日からちょうど3年後の夜9時。3年もすればファビオラも21歳。島を離れ、町に出て仕事をしていてもおかしくない年齢だ。
自分自身も3年も日本で生活していれば、妻との関係や仕事に対する情熱も変化があるだろう、そのときに改めてファビオラとの関係を熟慮してもよいと判断し、そう設定した。3年後というのはいつだと青田は聞く。輝明はオフィスの壁時計に目を向け、実はそれが今日。日本時間では朝の4時だと輝明は静かに言う。青田は咄嗟に自分の腕時計に目をやる。今は朝の4時10分。その時間を10分ほど過ぎている。驚いた青田は電話してみろよと輝明にけしかける。輝明は躊躇するが、課長の席からなら国外の通話も可能だ、今すぐ電話してくださいよと輝明を説得する。
輝明ももともとその気持ちは強かった。
仕事に疲れ、家庭に絶望した今では、過去の美しい思い出にまた一度すがりつきたいという気持ちに傾きかけていた。青田に説得され、そのさらに10分後、課長席からその携帯電話に電話をすることに。

受話器を持ち上げると気持ちは高ぶる。果たしてファビオラはあの携帯を拾い上げただろうか。果たして島を離れて町を歩いているだろうか。果たしてまだあのバッテリーは充電されぬまま枯れてしまってはいないだろうか……。

うじうじ考え込んでいる輝明を見ていられないと青田は席をはずし、喫煙ルームへ消えていく。一人オフィスに残された輝明は意を決して電話番号をプッシュしてみる。あの携帯電話が電波を拾わない限り、何の反応もないはずである。コールされるわけがないとはわかってはいても指が震えた。
ところが予想ははずれ、輝明が押した番号で電話が通じた。呼び出し音が鳴る。輝明は慌てて電話を切り、興奮するあまり喫煙ルームへ駆け込んで青田に報告する。青田も同様に信じられないという言葉を連発。指定した電話番号は何度も確認した。間違えてはいない。……ということはファビオラが携帯電話を拾い、今この瞬間、電波の届く場所にいたことになる。しかもバッテリーは健在で……。確認するためにもう一度電話してみようと決心するが、今更何を話していいかわからない。
もしもファビオラが3年経った今も輝明のことが忘れず、携帯電話を肌身離さずに持っているというのであれば、もう一度ドミニカに戻って自分の気持ちを確かめてもいいと、そこまで気持ちが高揚するのだった。気持ちを鎮め、青田を横に従えて再度同じ番号をプッシュする。緊張する。気持ちが高ぶりすぎて胃が痛い。隣の青田も興奮のあまりに肩で息をしている。

やはり二度目もコールした。

コールを数える。一回、二回、三回……。果たしてファビオラは電話に出るのか。体中から汗が吹き出てくる。そして……相手が電話に出た。輝明が何か言葉を発しようとしたその瞬間、電話を出た男が荒い息でこう叫んだ。

「お前は、ファビオラかぁぁぁ……!」

怒号とも、死にゆく者の断末魔ともとれる叫び声が受話器を通して輝明の耳に届く。輝明は何か言おうとしたが咄嗟に電話を切った。青田がどうしたと聞いてくるが何も答えられない。

今の何だ? 
なぜファビオラに渡すはずの携帯電話に男が出、しかもその男がファビオラの名前を口にしたのか……。

輝明の頭の中は混乱し、激しい恐怖に体が包まれる。あの声、あの口調。ただごとではない。あの携帯電話がまだ今も生きていて、その携帯電話を通してファビオラの身を案ずるような衝撃的な言葉が投げかけられた。

輝明はその夜、事実を確かめたいという一心でドミニカに渡ることを決心し、プロジェクトの責務を突如放棄する。そして翌日には航空チケットを手に入れ、日本を離れる。

また、海の向こうドミニカでは、ボートでしか渡ることのできない秘密のリゾート地で要人四人が同時に死亡するという不可解な事件が起きていた。これまで鶏や豚を盗んだコソ泥少年をしょっ引くことや、たまにやってくる北米ダイバーの落とし物の手続きぐらいしか経験のない警察官、マルコとセサールが事件解決のために乗り出していた。日本からやってきた輝明は、ボランティアの活動中に知り合った友人たちの力を借りてファビオラの行方を追い、ファビオラの島へ――。

そして、真実を知るためにあのスポットへもう一度潜る――。


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